
こんにちは。ecbeing入社3年目のTです。
私はマーケティング領域のデータアナリストとして、SQLの作成からダッシュボード設計、施策の効果検証まで幅広く担当しています。
ここ最近、社内外で生成AIの活用が一気に進み、これまでアナリストの頭と手の中にあった「分析のコツ」が、次々とAIへ、つまり「外側」へ出ていく感覚を肌で感じています。Text-to-SQLでクエリの初稿が数分で生成され、LLMがEDA(探索的データ解析)の観点を即座に提示してくれる。この変化のスピードは、入社当初の想像を遥かに超えるものでした。
本記事では、こうした変化の中で改めて向き合うことになった「暗黙知と形式知」というテーマについて、私の実体験をもとに考察してみたいと思います。
AIに「形式知化」を任せて学んだ、道具の強さと限界
具体的な例として、マーケティング部から「直近のリピート顧客の動きが鈍い気がするので、要因を探ってほしい」という依頼を受け、「リピート顧客の分析」を実施した際の経験を挙げます。
通常、テーブル構造の確認からSQL作成、EDA(データの特徴や構造を理解し、仮説を生成・検証するためのプロセス)を進めるだけで丸一日はかかる作業ですが、今回は実験的にText-to-SQL(自然言語での質問をSQLに変換する技術)とLLMによるEDAをフル活用してみました。
1.「集計の初動」が劇的に速くなった
LLMにテーブル定義とサンプルクエリを渡すと、わずか数分でクエリの初稿が返ってきました。新人時代、先輩のクエリを必死に「写経」して体に染み込ませてきたあの経験が、今やAIの手によって誰でも再現可能な「形式知」へと変換された瞬間でした。
EDAも同様です。データを渡せば、LLMが分布や相関を即座に要約し、仮説の種まで提示してくれます。「どこからデータを眺めるか」というアナリストの暗黙知が、一気にショートカット可能になったのです。
2.「数字の裏側にある文脈」はAIには見えない
一方で、AIの出した数字をそのまま信じる怖さも実感しました。
出力されたSQLを精査すると、特定の「論理削除フラグ」の考慮が漏れており、リピート顧客の母数が実態より2割も多く計算されていました。
AIはスキーマ(構造)は読めても、データ基盤の歴史までは知りません。「3年前のシステムリプレイス時にトラッキングが不安定だった1週間」や、「このフラグはこの条件の時だけ意味が変わる」といったドメイン特有の文脈(暗黙知)を持っていないからです。
この経験から、AIは形式知化を加速させる最強の武器ですが、「最後にその数字を信じてよいか」を判断する審美眼は、依然として人間にしか持てないことを痛感しました。
「問いを問い直す」―人間が握るべき暗黙知の核心
もう一つ、離反顧客の分析依頼を通じて学んだことがあります。
「離反者が増えているので原因を分析してほしい」という一見シンプルな依頼でしたが、ここにはアナリストが最も価値を発揮すべき「暗黙知」が隠れていました。
言葉の裏にある「本当の目的」を探る
当初、私は「過去3ヶ月購入がない会員」を離反と定義し、チャネル別の傾向をまとめて報告しました。しかし、依頼者の反応は芳しくありませんでした。
問いを問い直す必要性
このとき強く実感したのが、依頼者の口にする言葉と、本当に必要な分析の間には常にギャップがあるということです。
詳しく話を掘り下げてみると、知りたかったのは「過去の傾向」ではなく、「離反しそうな予兆のある会員を、今のうちにどう救い出すか」という未来の打ち手だったのです。
- 「離反を減らしたい」 ⇒ 過去の集計か、未来の予測か?
- 「CVRを上げたい」 ⇒ サイト改修か、流入セグメントの改善か?
こうした「問いの再設計」は、AIに依頼文をそのまま投げても解決しません。
依頼者と対話し、ビジネスの現場感を持って「本当に解くべき課題」を特定する力こそ、AI時代に人間が研ぎ澄ますべき暗黙知の核心だと学びました。
SECIモデルで考える:AI時代の「知の循環」
AIに「形式知化」を任せた経験と、人間による「暗黙知」の重要性。この二つを経験して気づいたのは、これらは対立するものではなく、相互に高め合うサイクルであるということです。
経営学者の野中郁次郎氏が提唱した「SECI(セキ)モデル」では、暗黙知と形式知が循環することで知が深化するとされています。AI時代の今、このサイクルは次のように進化していると感じます。
1. 形式知を整える力(外部化・連結化)
AIに正しく集計させるため、KPI定義やデータカタログを整備する。整った形式知の上でAIを動かすことで、質の高いアウトプットが量産されます。
2. 暗黙知を育てる力(共同化・内面化)
AIが定型業務を巻き取ってくれるからこそ、人間は現場の違和感に気づき、依頼者と深く対話する時間に集中できる。そこで得た「気づき」が新しい暗黙知となります。
依頼者と一緒に問いを練り直す。データの違和感に気づいて引き返す。受け手に応じて結論の語り方を変える。こうした暗黙知は、現場の経験を積むことでしか育ちません。新人時代の私はここでつまずいたことが多く、振り返ると、先輩のフィードバック一つひとつが暗黙知の習得そのものだったと感じます。
この2つはつながっている
形式知をきれいに整えるからこそ、AIに渡せる範囲が広がります。AIに渡せる範囲が広がるからこそ、人は暗黙知の領域に時間を使えるようになります。そして暗黙知が育つことで、また新しい形式知が生まれます。
「形式知をきれいに整えるから、AIに任せられる範囲が広がる。余った時間で現場に触れるから、人の暗黙知が育つ。そして育った暗黙知が、また新しい形式知を生む。」
この高速なサイクルを回し続けることこそが、これからのデータアナリストの成長戦略なのだと確信しています。
おわりに
配属からの3年間を振り返ると、最初は「SQLをミスなく書くこと」に必死だった自分が、今では「その問いはビジネスを動かすか?」「数字の裏に潜む文脈は何か?」という視点を大切にするようになりました。
「どう集計するか」はAIによって民主化されていきます。だからこそ、私は「何を問うべきか」を磨くための暗黙知を、これからも現場で泥臭く積み上げていきたいと考えています。
ビジネスの意思決定の横に、常に頼れるアナリストであり続けられるよう、これからもこの「知の循環」を楽しんでいきたいです!
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